【富士の見えるところに温泉はない】

 箱根、伊豆では古くから「富士の見えるところに温泉はない」といわれ、温泉開発の指針とされていた。深いボーリングによって孔井から温泉採取がなされるようになって例外もあるが、この諺は温泉湧出機構を見事に表現していて興味深い。
 温泉が地下深部から地表に湧出するには上部の地下水を押しのけて上昇しなければならない。深い谷底では上部の地層が侵食により取り除かれているので、地下水面はほぼ谷底の高さにある。地下水面は周囲の山体から谷間に向かって下がっていて、地下深部から上昇してくる熱水にとって谷底に湧出したほうが仕事量が少なくなる。無駄な仕事を好まない自然の法則にしたがって、温泉は谷底に湧出する。

 久野久(一九五二)は箱根・伊豆では湯ヶ島層群の露出するところに温泉があると指摘している。箱根カルデラでは早川や須雲川によって深い谷が刻みこまれた。谷底には火山の土台である湯ヶ島層群が露出し、温泉の湧出しやすい条件となっている。その谷底からは確かに富士は見えない。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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