【エアリフト・ポンプ時代】

 第二次大戦が終わり、敗戦のドン底にあった日本の経済が昭和二十五年ごろから急速に回復し始めた。爆発的な観光の大衆化が始まり、それに伴って箱根温泉の急速な開発が始まった。温泉は観光資源として重要視された。自然湧出量の何倍もの温泉を汲み上げる渦巻きポンプにも欠点があった。温度の高い温泉には多量の塩分が含まれている。塩類の化学作用でポンプが腐食し、故障となった。渦巻きポンプの羽根やパイプに沈殿物が付着し、ポンプの能力が低下した。渦巻きポンプの最大の泣き所は、源泉の孔内水位が一〇メートル以上低下すると、原理的に揚水能力がなくなることである。水位の低下に応じて、渦巻きポンプを置く位置を下げるために、大きな穴を掘り下げていった。しかし、穴の掘り下げにも限度があり、最大でも三メートル程度であった。そこで、水位の低下が大きくても、その水位を追いかけうるポンプとしてエアリフト・ポンプが登場した。

 エアリフト・ポンプの原理はビールやサイダーが泡としてビンから噴出するのと同じである。水の中に多量の空気を圧入すると、水中に無数の泡が生じ、単位体積当たりの重さが水よりも軽くなり、地下の水は空気と水の混合体として地表に取り出される。実際には、深さ数百メートルの孔井内に直径二センチほどの送風用鉄管を水面下二〇〇~三〇メートルさしこみ、地表に置いた高圧コンプレッサーから空気を圧入する。温泉は気水混合流体として噴出する。このポンプでは孔井内には鉄管があるだけなので、温泉沈殿物が付着しても、掃除は簡単である。鉄管を引き上げ、沈殿物をゴリゴリと削り取り、再び鉄管をもどしておけばよいので、源泉管理は容易となった。このポンプの威力は孔井内水位が一〇メートル以上になっても、いっこうにかまわないことである。エアリフト・ポンプの出現によって、孔内水位の深くなる山の斜面でも、どんどん温泉井戸の開発ができるようになった。

 温泉開発に威力を発揮したエアリフト・ポンプのすぐれた性能こそが温泉枯渇を招く大きな要因となった。エアリフト・ポンプの普及によって、自然の供給量をはるかにオーバーした温泉揚湯が行われてしまい、この技術開発に対応した温泉保護行政が必要になっていた。エアリフト・ポンプは、いわば温泉の「産業革命」であった。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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