【箱根振興会の設立】

 昭和に入って箱根の観光整備、宣伝の中心になって活躍する箱根振興会の諸事業は、今日から見てもめざましいものがあり、今日の箱根観光の基礎は、この時代に確立されたといっても過言ではない。そこで箱根振興会の結成から、会が実施した諸事業について述べてみたい。
 大正十五年(一九二六)四月七日、箱根温泉旅館組合長梅村美誠を始めとし安藤蓁太郎・石村喜作・榎本恭三・川辺儀三郎・沢村正吉・小川仙二・鈴木七郎・安藤兵治等旅館組合の幹部は、箱根各町村の有志内山忠次郎・山口朝吉・杉山六太郎・大津治三郎・諸星卯三郎・室伏一太郎・馬越栄吉・田中庄吉及び小田原電気鉄道株式会社の賛同を得て、次のような「箱根振興会設立趣意書」を発表した。

    箱根振興会設立趣意書
   交通機関ノ急速ナル発達ハ各地ニ散在セル遊覧地ヲシテ互ニ近接セシムル事ハ最近ニ至リ殊ニ著シ
   ク、従テ各地其遊覧客ヲ招致スルコトニ考究維レ努ムル有様ナリ、殊ニ箱根温泉地トシテハ従来徒
   ラニ天興ノ勝景ニ狎レ何等積極的宣伝ヲ講ゼザルモ来遊スル者其数多ク、殆ンド他ニ競争地アルヲ
   忘レタル観アリシガ、彼ノ大震災後ノ形勢ハ全ク一変、従来ノ旧慣ニヨリテ無為無策ヲ許サゞル状
   態ニ在リ、即チ面目ヲ一新シ陣容を改ムルニ非ラザレバ、徒ラニ競争場裡ノ落伍者トナリ再ビ起ツ
   能ハサルニ至ル可シ、此ノ時ニ際シ箱根ニ利害関係ヲ有スル人ハ内ニ外ニ覚醒ヲ叫ハザルモノナキ
   ニ至レルハ、全ク時ノ勢ニシテ之即チ振興会設立ヲ主唱スル所以ナリ、由来箱根天恵ノ霊泉ハ尽ク
   ルコトナカル可シト雖モ之ヲ利用シ資本化スルニハ巨額ノ資本ト絶大ナル努力ヲ要シ、若カモ年月
   ヲ要スルコトハ人ノ知ル処ニシテ今後尚益々開発セシム可キ所多々可有之ト雖モ、現在ノ温泉業者
   ノ力ノミニテハ此ノ偉大ナル箱根ノ勝地ヲ活用シ宣伝スルニ余リニ微力ノミナラズ、又独リ温泉業
   者ノミガ私ス可キモノニ非ラズ、箱根ニ来遊スル遊覧ノ多少即チ箱根ノ繁栄ハ唯温泉業者ノ幸福ノ
   ミナラズ苟モ箱根ニヨリテ生活ヲ営ムモノニ利害得失其影響スル処頗ル大ナリ、交通機関ヲ営業ト
   スルモノ、物産組合、二業組合、行商組合ハ元ヨリ広ク箱根町村ニ及ボスコト瞭カナリ、箱根ノ地
   勢上其町村散在シテ集合的ニ非ラザル為メ一概ニ論ズル能ハザルモ、悉ク無関係ナリトハ謂フ可カ
   ラザル明カナリ、爰ニ於テカ吾人ハ箱根ニ利害関係ヲ有スル者ハ協力一致以テ箱根全山ノ隆盛ヲ期
   スル爲メ全力ヲ尽クシテ愛郷心ノ熱烈ナル所ヲ天下ニ宣伝セントスル所以ナリ、願ハクハ同憂ノ人
   ハ協賛以テ本設立ヲ実現セシメ以テ活動セラレン事ヲ冀フ
                                発起者  箱根温泉業者一同

 この趣意書が発表された同日、塔之沢環翠楼において設立総会が開かれ、箱根振興会の初代会長には、温泉旅館組合から出された塔之沢一の湯小川仙二が就任した。そして振興会の中心となるべき責務を負った旅館組合は、箱根振興会加入出資金二〇〇〇円の支出を臨時総会で可決した。
 復興会から振興会へ箱根全山的規模でこのような組織化が行われたのは、なぜであろうか。趣意書にも見られるように、関東大震災以降温泉地箱根の将来的展望は厳しく、内には業者間の過当競争があり、外には競争地としての多くの観光地が誘客宣伝を始めている以上、「箱根ニ利害関係ヲ有スル者ハ協力一致ヲ以テ箱根全山ノ隆盛ヲ期スル」必要があったためであろう。
 これらの考えは、箱根のホテル、旅館業者が互いの利害関係を超えて明治二十九年結成した箱根温泉宿組合の趣旨にも通じるし、また箱根全山の観光行政を考えても現実的な課題として必要なことであった。
 箱根全山の行政は、湯本町(昭和二年町制施行)、温泉村、宮城野村、仙石原村並びに箱根町(箱根町は元箱根村、芦之湯村の三か町村事務組合を構成していた)の五つにわかれ、広域的な政策もなかった。また予算規模も驚くばかりの弱小であり、加えて大正十二年の関東大震災による被害復旧工事の出費のほか、教育予算の負担増等に伴う窮乏した町村財政の中にあった。このような背景の中で、箱根温泉旅館組合は前述の箱根振興会と一体になって、箱根山全体の振興と開発に当たった。
 振興会の役員は、このような会の事情を反映して、各界から適材適所で選出され、常任理事制を採用して、会務を処理していった。会発足当時の常任理事は次のような人々であった。
  大森保次   堀内正夫   新井信夫    沢田かず(※金偏に和)義   石村喜作
  大場金太郎  原田中    福住与三郎   鈴木七郎           安藤好之輔

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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