【温泉音頭の誕生】

  二つ流れもネ   遇ふ瀬の湯本
  しのび寄り添ひ  岩に寄り添ひ
    ヘッチョイ  鳴く河鹿
  ほんのり  ほんのり湯の煙
    箱根・湯の山  湯の煙
    ヘッチョイ  ヘッチョイ
     ヘッチョイナァー

 現在箱根温泉の各地で芸者衆のお座敷唄として歌われ、夏の盆踊りなどに必ず登場する「ヘッチョイ節」は、野口柾夫の作詞・杉山長谷夫作曲のコンビによって作られたものである。このヘッチョイ節は同曲ながら、「十一湯情景その一」と「箱根風物詩」とにわかれる。前者は、

  意気ブロンドネ  ミセスかミスか
  色香ほのめく   湯の香ほのめく
   ヘッチョイ   宮之下
              (ハヤシ同じ)
と箱根各地の温泉場の情景を唱ったものであり、また後者は、

  胸に思ひはネ  大涌谷よ
  君にこがれて  空にこがれて
   ヘッチョイ  立つ煙
              (ハヤシ同じ)
と箱根山各地の景観を唱ったものである。
 昭和九年に作られたこのヘッチョイ節を前後として、箱根ではいわゆる民謡調のご当地ソングがつぎつぎと作られていった。

  ヘァー虹は七色  湯霧にかかる
    箱根八里を
    箱根八里を  渡り鳥
           アー山坂そうだネ
ではじまる野口柾夫作詞・中山晋平作曲の「箱根節」は、名曲の名が高かったし、西条八十・中山晋平のコンビによって次のような「強羅おどり」も作られた。
    一、ハ・・・・ほととぎす
      きいて別れた  強羅のゆ宿
      たしかあの夜は
      たしかあの夜は  あらひ髪
      サァサョイ~ヨイトヨイトナ
      サァサョイ~ヨイトヨイトナ
また野口雨情 草川信のコンビによって「宮之下音頭」も作られた。
    一、待つは春風  ヨイサ  梅ケ枝町に
             ソリヤ  ヨイト  ヨイヤサノ
      冬も鶯啼きに来る  ハ  ヤッサラサ
                 ハ  ヤット  サラサ
      冬も鶯啼きに来る  ソリヤ  ヨイトヨイヤサノサ
 このように当代一流の文学者、作曲家によって作られたご当地ソングは、箱根振興会や温泉旅館組合の依頼によるものであり、このような人たちに作詞・作曲を依頼できる往時の振興会、旅館組合の実力のほどがしのばれる。
 温泉音頭の誕生が箱根温泉の活気づけ、大衆化に向けてひとつの役割を果たしたことは確かであろう。

 オール箱根ソング

  ヘッチョイ節
     野口柾夫  作詞
     杉山長谷夫 作曲  
 その一 十一湯情景
 二ツ流れもネ   遇ふ瀬の湯本
 しのび寄り添ひ  岩に寄り添ひ
   ヘッチョイ  鳴く河鹿
  ほんのり、ほんのり、湯の煙
      箱根、湯の山、湯の煙
    ヘッチョイ、ヘッチョイ
          ヘッチョイナア
         (以下ハヤシ同じ)
 寝ものがたりのネ  枕の下を
 水も流れる     霧も流れる
   ヘッチョイ   塔之沢
 意気なブロンドネ  ミセスかミスか
 色香ほのめく    湯の香ほのめく
   ヘッチョイ   宮之下
 雲に浮寝のネ    底倉どまり
 夢の通ひ路     君へ通ひ路
   ヘッチョイ   八千代橋
 藤は紫ネ      瀧白糸よ
 かゝる木の間の   かゝる谷間の
   ヘッチョイ   堂ケ島
 谷は藍染めネ    紅葉は緋染め
 木賀は湯もやの   なびく湯靄の
   ヘッチョイ   ぼかし染め
 歌の山彦ネ     湯靄にかすむ
 さくら吹雪の    花の吹雪の
   ヘッチョイ   小涌谷
 明けの蘆の湖ネ   朝霧分けて
 山で鳴く鳴く    谷で鳴く鳴く
   ヘッチョイ   閑古鳥
 強羅初夏ネ     茂山葉山
 湯浴みすがたに   百合のすがたに
   ヘッチョイ   風かをる
 招くすゝきよネ   仙石便り
 空に錦の      尾根に錦の
   ヘッチョイ   小塚山
 姥子岩の湯ネ    底まで透ける
 月にのぞかれ    星にのぞかれ
   ヘッチョイ   はづかしい

 その二 箱根景物詩
 川は早川ね     たきつ瀬早瀬
 水のしぶきは    をどる飛沫は
   ヘッチョイ   雲となる
 ほんのり、ほんのり、湯の煙
       箱根、湯の山、湯の煙
     ヘッチョイ、ヘッチョイ
           ヘッチョイナ
 (以下ハヤシ同じ)
 谿でせきれいネ   広野でゴルフ
 尾羽根ふりふり   クラブふりふり
    ヘッチョイ  日を暮す
 胸に思ひはネ    大湧谷よ
 君にこがれて    空にこがれて
    ヘッチョイ  立つ煙
 君とドライブネ   長尾の峠
 崖の桔梗が     にくや桔梗が
    ヘッチョイ  投げキッスする
 燃えるつつじにネ  蓬萊山の
 霧もほのぼの    雲もほのぼの
    ヘッチョイ  紅をさす
 晴れの小袖はネ   千鳥か蝶か
 墓もならんで    峯もならんで
    ヘッチョイ  二子山
 道中双六ね     お関所跡に
 咲いて夢見る    昔夢見る
    ヘッチョイ  合歓の花
 瑠璃の蘆の湖ネ   寝ざめの富士が
 さかさ姿の     扇すがたの
    ヘッチョイ  水鏡
 恋慕宵闇ネ     燈籠流し
 胸に火をたく    峯に火をたく
    ヘッチョイ  大文字
 国立公園ネ     世界の箱根
 山にほれぼれ    水にほれぼれ
    ヘッチョイ  旅ごゝろ
 サクラ、フジヤマ  ビュテフルハコネ
 国のはてまで    海のはてまで
    ヘッチョイ  名も高い

 箱根節
 ハアー虹は七色、湯靄にかゝる
     箱根八里を
     箱根八里を、渡り鳥。
        アー山坂そうだネ
        (以下ハヤシ同じ)
 ハアー乙女峠の、尾花が招く
     富士を見染めて
     富士を見染めて、穂が招く。
 ハアー霧の山駕籠 山百合添へて
     君をしのぶの
     君をしのぶの、箱根草
 ハアー谷の深間に、湧く湯のけむり
     別れおしんで
     別れおしんで、木にからむ。
 ハアー二子時雨れる、蘆の湖けぶる
     合ひのお関所
     合ひのお関所、袖の露
 ハアー登るケーブル、針金だより
     夢に見たよと
     夢に見たよと、湯の便り。
 ハアー思ひ寄木の、箱根のみやげ
     恋のからくり
     恋のからくり、誰が解く。

 海の小田原
 ハアー早瀬早川、われても末は
     御幸浜辺の
     御幸浜辺の、女夫浪。
      アードント来たドントネ
         (以下ハヤシ同じ)
 ハアー恋の小田原、灯にこがれ
     会いに黒潮
     会いに黒潮、南風
 ハアーすいは梅干、甘いは湯餅
     にがい涙は
     にがい涙は、誰ゆえに。
 ハアー社二ノ宮、開運守り
     さくら花漬
     さくら花漬、湯でひらく。
 ハアーとんとこ爼、蒲鉾つくり
     しんそこ迷はす
     しんそこ迷はす、罪つくり

 強羅おどり
   西条八十 作詞
   中山晋平 作曲
 一、ハ………ほとゝぎす
   きいて別れた  強羅のゆ宿
   たしかあの夜は
   たしかあの夜は  あらひ髪
   サアサヨイ~ヨイトヨイトナ
   サアサヨイ~ヨイトヨイトナ
      (以下ハヤシ同じ)
 二、ハ………小夜ふけて
   月は明星の 岩の根まくら
   わたしやあなたの
   わたしやあなたの  腕まくら
 三、ハ………朝嵐
   年増うぐいす  ほのぼの鳴いて
   霧に明けゆく
   霧に明けゆく  キャンプ村
 四、ハ………名にし負ふ
   箱根強羅の  八重山ざくら
   様と見る日の
   様と見る日の  色のよさ
 五、ハ………はかなしや
   恋のゆくへか  あの大文字
   消えてのこるは
   消えてのこるは  天の川
 六、ハ………はるばると
   紅葉見に来た  強羅の宿で
   紅葉散らずに
   紅葉散らずに  散る浮名
 七、ハ………恥かしや
   わたしや強羅の  ケーブルそだち
   旅のおかたに
   旅のおかたに  のぼりつめ
 八、ハ………さしむかひ
   仲を邪魔する  炬燵のやぐら
   強羅湯けむり
   強羅湯けむり  雪見酒
 九、ハ………またおいで
   登山電車は  チョイト段梯子
   強羅東京の
   強羅東京の  中二階

 宮之下音頭
      野口雨情 作詞
      草川信  作曲
 一、待つは春風 ヨイサ 梅ケ枝町に
    ソリヤ ヨイト ヨイヤサノ
   冬も鶯啼きに来る ハ ヤツサラサ ハ ヤット
 サラサ
   冬も鶯啼きに来る ソリヤ ヨイト ヨイヤサノサ
       (以下ハヤシ同じ)
 二、明星岳から ヨイサ 朝日があがりや
     宮之下から夜は明ける
       宮之下から夜は明ける
 三、松が岡から ヨイサ 吹く風さへも
     女松恋しと吹いて来る
       女松恋しと吹いて来る
 四、堂ヶ島には ヨイサ 対星館と
     並ぶ大和屋軒つゞき
       並ぶ大和屋軒つゞき
 五、見ても見あかぬ ヨイサ 奈良屋の庭は
     池の湯にさへ鯉がすむ
       池の湯にさへ鯉がすむ

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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