【自主規制】

 二点目は、自主規制、共存共栄の精神です。箱根温泉の中でもお客さんをめぐっての争いは昔からありました。
 宮之下の奈良屋さんから見つかったものです。天保十四年(一八四三)、江戸の末にできた湯宿の営業に関する規約書があって、その中に四つほど条目が載っております。駕籠屋さんにごちそうをして、客を自分の湯宿に引き寄せるようなことはいけない。
 東海道を行く旅人を箱根七湯のほうに何とか引っ張り込みたい。そのために畑宿とか、須雲川の茶屋や旅籠に年末、暑寒の音物、いわゆる付届をして、なるたけ自分のところに客を回してくれというようなことが行われていたわけですが、それはいっさいいけない。
 湯宿というのは、この当時でも一泊二食つきですが、旅籠というのは素泊まりが原則です。旅籠並みの安い金で湯宿に泊めちゃいかんというような営業協定をしているわけです。もしこの条項に違反した場合には、違反者は五〇日間の営業停止です。それを知っていながら黙っていて、もしわきから知れても、その隣の人は一〇日間の営業停止。このようなルールで自分たちの箱根七湯を守っていく。このような箱根温泉の乱れをどう正したらいいかということで、当時の温泉場の人たちが全部集って協議し、この規約書をつくっているわけです。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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