【郷土愛をはぐくむ教育を】

 松坂●座談会の皮切りとして、まず湯本の久保寺さんからお願いします。

 久保寺(副理事長)●現在の箱根は成熟期を迎えていると思います。しかし、このままでは箱根は砂漠になりつつあると心配しています。
 昭和五十五年の宿泊客四六一万八〇〇〇人の中には寮・保養所によって支えられている宿泊人数がかなりあります。この寮・保養所の宿泊客がふえていることはなぜか素直に喜べないのです。本来箱根を支えていた旅館が減少してきたのも、寮・保養所がふえた結果によるものでしょう。
 そこで、箱根に今最も欠けているものは何かと、一般的に箱根の将来を考えてみますと、まずハード面、施設とか道路とかの社会資本を投入することによって地域の地盤沈下を防ぎ、より一層利便性を求めて発展させるということがあると思います。私が指摘したい他の一つは、現在の観光地で最も欠けているものは人間関係であるということです。心と心を結ぶために私は箱根を「偉大なる田舎」にしたいのです。いわゆる洗練された田舎づくりをすることが、将来の箱根の発展につながると思います。田舎というのは心のふるさとです。安らぎの場であり、過去と現在と未来への夢をつなぐ一つのかけ橋になるのが田舎だろうと思います。観光客と地域の住民との一体感によって、非常に特色ある観光地になるのではないかと思います。
 この原点はどこにあるかということになりますと、やはり教育です。郷土教育を通して、郷土に対する愛着心をはぐくむことによって、ローカル色が豊かになると思うのです。これは非常に時間のかかることですが、今後五〇年、一〇〇年の箱根を考えますと、ぜひやっていかなければならないと思います。
 道後のような歴史のある温泉場が都市化の波に押されて、ローカル色ある温泉場の情緒、雰囲気がなくなってしまったようです。熱海の場合も高度成長に伴った旅館、保養所等の乱立によって、全くローカル色が失われてしまいました。ローカル色が失われるということは、そこに行く魅力がなくなってしまったということです。
 これからの観光地はみんなで力を合わせ、気配り、心配りで観光地の顔をつくっていかなければならないと思います。

 岩崎●教育の問題で、郷土愛をどうつくっていくべきかと今、箱根の先生も教育委員会もだいぶ努力はしています。しかし、箱根に在職している学校の先生方が少し箱根を知らなさ過ぎるということがあります。子供自身も先祖が築いてきた文化なり歴史なりを知りません。先生が知らないから当然子供は知らないわけです。

 松坂●青年部の方々はPTAにも関係していると思いますが、いかがですか。

 安藤(青年部)●郷土の歴史を守るためには、子供がそれを知っていなければいけないわけですから、教えなければなりませんね。しかし、その前に親の問題があるわけです。例えばお客さんに案内を求められたときに、わからない大人がいっぱいいるわけです。
 商売に結びつけた教育ということで言いますと、旅館は人的労力に依存するのが大なんですね。旅館の三代要素として料理、施設、人がありますが、僕らの商売はリゾートですから、どうしても機械化とか省力化に限度があります。そういう意味では、若い社員をどうやって教育していくかということが課題です。

 小川(青年部)●私は小田原青年部会議所で「ふるさとの民話」という運動を三年間やりました。郷土愛を育てるには、子供の場合、民話なんかでわかりやすく、素直に入って行けます。学校教育の中に民話を取り入れたりすれば、箱根の歴史とかローカルなものが自然に浸み込んでいきます。それによって先人の苦労とか、箱根の成り立ちがわかり、郷土愛に転換していくのではないかと思います。ただ箱根の中の名所旧跡の説明をするだけでなく、いろんな民話的なもの、つまり歴史をつくっていくようなものを教育の中に取り入れたほうが、素直にいくのではないかと思います。

 松坂●大変よい意見だと思いますね。

 植原(青年部)●先ほど久保寺さんもおっしゃたように、これからの子供の教育を真剣に考える必要があると思います。箱根として郷土愛の教育機関を設ける必要がありはしないかと考えているんです。
 それは学校での社会教育という面で考えた場合、あまりに郷土愛というものをとらえ過ぎますと、社会全体の把握に欠ける面があると思います。世界全体の把握ができなくなるとか、狭いものになってしまいますので、学校の教育に郷土愛をあまりに頼るのは危険だと思います。

 勝俣(利)(観光産業課長)●合理化のために採用したパートの従業員さんがお客さんと接する場面がたくさん出ています。お客さんが温泉地の見どころや特徴を聞いても、パートの人は勉強していないから答えられません。そういう状況がもしあるとすると、大変寂しい思いをするんじゃないかと思います。箱根としては心からのもてなしという意味からいって、そういう面の教育もお考えいただけたらと感じました。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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