【協調とホスピタリティー】

 田中(観光協会長)●先般来、県では将来の神奈川県の観光について専門委員会を持ち、現在、答申の段階になっております。
 まず第一に、将来の観光地の担い手づくりとホスピタリティーの向上が重要な問題です。同時に、それに行政がどうかかわり合っていくかという問題があります。現在の観光は多岐にわたっており、業界はもちろんですが、やはり行政のバックアップがないと円滑には進みません。そういう観点から、答申としては、県としても新しい観光地づくりに対してイベントの開催などに積極的に取組んでいただきたいということです。
 次に、観光地自体としては、先ほどお話が出ましたが、連合艦隊という問題があります。私もこの点を痛感する一人ですが、連合艦隊の場合には、旗艦があって、それに巡洋艦、駆逐艦、航空母艦と、それぞれ特性のある形のものが一致協力して初めて立派な観光地づくりができるわけです。
 ただ、どこの観光地にしても施設が大型化していくという中で、中小の施設がそれについていけない。連合艦隊という考えから言えば、当然中小は中小なりの特性を生かしていかなければならない。戦艦なり航空母艦の中小艦に対する配慮も必要だと思います。また、中小の駆逐艦、潜水艦等は大型戦艦に対しての協調が必要です。そういう意味で、業界内の心の触れ合い、コミュニケーションが大事だと思います。子供の教育はもちろんですが、町を挙げての観光客に対するホスピタリティーの向上を図るためには、まず業界から進めていかなければなりません。

 岩崎●かつて、箱根の経済・文化の先達は旅館業者であったと思います。大小の旅館が協調して、地域の核となってほしいのです。例えば、箱根には土産物屋があり、箱根細工の職人がおり、芸者衆がおります。そういう人々の協調で、箱根温泉が育ってきたのです。箱根細工は年々厳しい状態に追い込まれています。現在、湯本地区には余り後継者がいません。恐らく湯本の箱根細工は将来なくなってしまうと心配しています。箱根細工というのは箱根温泉の発展とともに現在まで来たのが、そういう状況になっています。したがって、地域ぐるみで観光地づくりをやっていくという姿勢が、一つ大きな柱になってほしいという気がします。

 石村(編纂委員)●協調という問題で申し上げますと、まず旅館同士が協調をして旅館組合を盛り立てる。それに関連した他の業者とも協調してやっていく。
 その場合に、前々から問題になっている、いわゆる寮・保養所の問題、それから非常に大きな資本が箱根に進出してきて、われわれのような中小の旅館の利益に反するような傾向があるわけです。こういう外来資本とか寮・保養所に対して、私自身がそうでしたが、今まで反感ばかり持っていました。仙石の例でいいますと、二四軒の旅館に対して寮・保養所が二四〇軒ある。こういうものとただ敵対視していたのでは、地域社会というものは成り立たないわけです。
 そこで、こういうことこそ町役場が中へ入って、初めは寮・保養所の幹部と旅館組合の幹部と話し合い、協調の場をつくっていただきたい。排斥し合うのではなくて、寮・保養所も箱根がよくなったほうがいいんですから、景色を守る、自然を守るとかいうことを、お互いに力を合わせてやっていかなければならないと思います。
 したがって、大きい旅館は大きい旅館なりにやっていけばいいし、小さいものは小さいものなりに特色を生かしてやっていけばいい。ただ、その間に協調がなきゃいけません。お互いに憎み合うようなことをしてはいけません。これは岩崎さんが示されたとおり、徳川時代に既にやっているんです。お互いにルールを守らなきゃいけないと思います。

 松坂●組合の執行部にいたときに感じたことですが、入湯税関係の会議には寮・保養所の代表の人も出てきましたが、旅館と寮・保養所の考え方には大部相異があるように感じました。

 久保寺● 箱根細工の問題が出ましたが、われわれはこの地域で育った箱根細工を育てていかなきゃなりません。その使命がやっぱり観光業者にあると思います。例えば旅館のちり箱に全部箱根細工を使うとか、広重の絵の額に箱根細工でつくったものを使うとか、随所にそういうものを出した箱根の雰囲気づくりですね。それによって地場産業を振興させるということも十分できると思います。

 勝俣(利)● 旅館ではお客さんが見えますと、「歓迎○○」と看板を出されますよね。お客さんが翌日十時なら十時に帰る前に、看板を水で洗い流して、次のお客さんの文字を書いています。こういうところを帰るお客さんが見たときに大変寂しい思いがするそうです。昔は泊まったお客さんが安全にうちへ帰れるように、神棚に燈明を上げて、「どうぞ安全に帰れますように」という精神面でのもてなしが大変あったと聞いています。合理化できる面はどんどん合理化していただいても、お客さんに接する面ではあまり合理化してしまわないようにしてほしいと思います。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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