【町の総合計画と行政への期待】

 榎本●先ほど総合計画の問題が出ましたが、一〇か年の総合計画に基づいて、毎年実施計画をつくるんでしょう。ところが、今お話があったように美辞麗句が並べてあるが、ほとんどできていないじゃないかということが言われますが。つくるときには、県あたりも学者の意見も聞いているし、もちろん地元のいろんな団体の意見も聞くでしょう。特に計画がどういうわけで実施できなかったんだということを、町民に提示してほしい。そうするとまた町民の協力もあるでしょうし。
 もう一つ、県なり国なりに対して、箱根がこうしてくれ、ああしてくれという問題は、大きな声ではほとんど出てきていません。行政同士のお話はしょっちゅうされている。例えば松坂さんが昨年やった芦ノ湖の問題の行政に対する要望は、ここ数年来初めてだと思うんです。県会議員にしても国会議員にしても箱根を重要視してますから、そういう面でもっと行政の力を集中してもらうことも必要じゃないかと思うんです。
 うちの祖父がいろいろ書いたものを見ますと、ずいぶん視察へ行っていますよ。昔は交通が不便だから、北海道あたりへ行くと半月以上かかっています。帰ってきて、恐らくあの時代ですから、皆さんとの話し合いの中にいろんなものが出てきたと思います。お互いに情報の交換ということが、協調の基本として必要じゃないかと思います。

 草柳●これからの箱根はどうあるべきかということで、三点ほど申し上げます。
 第一点ですが、箱根山のこれまでの乱開発が今後も続けば、みずから天下の景勝を消滅させ、自然破壊は急速に全山の観光産業を衰退に導くことになると思います。今こそ官民一体となり、箱根の自然を保護するため、自然公園法の規制を強化するよう運動すべきであると考えます。
 二点目。最近の外来資本などによる旅館の大型化から、ますます競争が激化してきます。あわせて現状では箱根の交通網は飽和状態で、入込客の増加は期待できず、一つの器の中での宿泊客の奪い合いが展開されるのではないでしょうか。したがって、これからの中小の旅館及び観光業者は総花的な客層の誘致対策をやめ、自己の環境と規模に応じた個性的、特定客の開発に努力して、都市におけるデパートと専門店との関係のように、各地域の共存共栄を図るべく、それぞれ企業努力することが望ましい。
 三点目。今後多人数による旅行よりもファミリー旅行、個人旅行がますます増加し、お客さんのニーズも多様化してくると思いますので、要は都市で味わえない田舎的、素朴な郷愁を盛り込み、かつ直接手を触れ、参加できる内容のレジャー施設を行政が地域ごとに設置すべきだと思います。

 沢田(編纂委員)●草柳さんがちょっとおっしゃいましたが、旅館をやっていて一番の悩みは、一たび雨が降ると、困っているお客さんに対しどうすることもできない。これを何とか改善して、箱根へ行けば雨が降っても遊ぶところがある、子供を遊ばせるところがあるということにできないかと思います。
 これは行政に余り期待しても駄目だという話ですが、たまたま私は温泉史の関東大震災のところを分担しました。それで大変びっくりしたことは、大正十二年のころは、旅館を観光産業だと考えないで、被害の状況を報告するにつけても、旅館何軒ということじゃなくて、家が何軒としか表現されていないんです。復興のために、箱根五か町村の人が県に陳情に行きまして、「このままではみんな飯が食えないし、箱根に住んでいる人が離散してしまうから何とかしてくれ」と言ったら、知事は「お湯がとまらなければ、客がまた集まってくるんだろう」と言って、何も援助してくれなかったんですね。それだから、昔の人は自分の力で必死になって復興したんだと思うんです。そういう点で、行政にあまり依存をするという考え方を持ったらだめじゃないかと思うんです。

 植原●この前、箱根町の企画課長さんと一緒に西湘行政センターで開かれたこれからの二市八町を考える勉強会に、青年部の代表として行きました。そこでは活性化という問題をかなり取り上げたわけです。活性化というテーマの中で、再開発という考え方が出てきました。例えばあそこに道路をつくって、今までの人の流れをこう変えて、全然違うものをつくり上げたらいいんじゃないかという見方もありました。箱根の中では、そういう開発の仕方は非常に危険性をはらむだろうと思うんです。そういう意味で企画課長さんにお願いしたのは、道路をつくってどこか開発してしまえばいいじゃないかという、安易なものでとらえてほしくないと思うんです。

 松坂●箱根の場合には、これ以上道が開発されることは不可能なんですね。

 植原●もちろんそうなんですが、例えば小田原の代表の方は、箱根の山の林道を一本つくってくれ、そうすれば土・日の渋滞が消えるじゃないか、という言い方をされるわけです。安易に道路をつくっちゃうという考え方はいけないんで、よくよく考えてからやらないとね。

 松坂●それはきっと足柄林道のことじゃないですか。この間たまたま知事が来られたときに、町長が要望事項を四つ述べたうちの初めに、足柄林道を県道に昇格してもらいたいということがありましたが、そのことですね。

 久保寺● 最近、町の職員の中に、地域とは全くかけ離れた考え方の人がいました。例えば税金の例ですが、旅館が一軒二軒つぶれたって、寮・保養所の固定資産税が入れば行政はやっていけるんだという考え方です。これは大変な問題なんです。行政の立場でも、それに携わる人が郷土愛を持ってもらいませんと、寮・保養所だけが残るという可能性も将来十分にあるんじゃないかと思います。この辺が大きな転換期ですので、新総合計画も大事ですが、そういう危機感を持った観光地づくりをこれから考えていかなければなりません。

 松坂●行政に対する話もだいぶ出てきましたので、行政のほうのお考えをいただきたいと思います。
 高村(企画課長)●最初に教育の問題が出ておりましたが、教育問題については二つあると思うんです。その一つは学校教育、社会教育の問題であり、もう一つは旅館業界を中心とする従業員教育になると思います。
 箱根町の場合、学校教育の中の郷土学習は、他の市町村に比べて進んでいるんじゃないかと私自身は思っています。例えば小学校三年になりますと、文部省のカリキュラムの中に、「私たちの町」というテーマを勉強させる項目があります。箱根町の場合は学校の先生が中心になって、そのために社会科の副読本をつくっています。全体としては観光地で働く人々の活動の様子などを中心としたまとめ方をしております。
 最近、文部省のほうで詰め込み教育の反省から、ゆとり教育という問題が提起されて、箱根町はそのゆとりの時間を郷土学習にあてています。各地域の特性を勉強しようということで、箱根細工、竹細工、あるいは郷土の歴史を取りあげています。
 ただ、その中で私自身が一番感ずるのは、箱根で育った子供たちの大半が箱根を出ていってしまい、この産業に携わっている方々の大半が箱根で育った人ではないというところに、観光客を迎える心の問題、意識の問題で、多少難しい点があるんじゃないかという気がします。
 もう一つは、従業員教育の問題です。昭和六十年代は情報化社会の時代になるという中で、観光客の旅館を選択する目はもっと厳しいものになってくると思うんです。受け入れる旅館のサービスが大きな問題になってきます。井島さんから規模的競争よりも質的競争だというお話がありましたが、サービスが大きなウエートを占めてくるんじゃないでしょうか。そういう意味から、従業員教育がもっと徹底してこなければいけないと思うんです。
 施設の規模の問題ですが、旅館というのは確かに観光産業における中枢的な役割を担っており、その重要性は今後とも変わることはないと思うんです。ただ、単に旅館経営という視点にとどまることなく、観光地の発展が旅館の経営健全化につながると思います。
 大型旅館の問題が出てきたわけですが、大きな旅館の中に客を外に出さない施設をつくっていますが、それは旅館経営上の問題だけでなくて、客の志向もそこにあるんだということをこの道のコンサルタントが言っておりました。お客が外へ出て行かなくなり、観光地が衰退していくことも事実です。こういう問題で地域と大型旅館との間で摩擦が起きています。その問題を解消するために協業化、協調化ということが出てくるわけです。
 観光計画ですが、今後の二年間で観光計画をしっかり定めていこうということで、昨年役場に観光対策室をつくりました。

 松坂●箱根町は全国的に見ても財政状況が非常にいいんですね。そこで、つい豊かな町だというふうに安易に考えてしまうのではないでしょうか。財源を支えているのは大部分が固定資産税で、営業所得は頭うちになっています。営業所得の税金がのびるならば本当の意味で豊かな温泉地と言えます。実際はそうではないのです。

 岩崎●箱根温泉にとって忘れてはならない厳然たる事実があります。それは箱根の温泉がかつては江戸、現在は東京、いわゆる大都市の人たちによって支えられてきたということです。恐らく現在のお客様の八〇パーセントは東京、横浜の人だと思うんです。したがって、大都市の市民のレジャー動向がどっちに向いているかということが、箱根温泉の将来を決定づける問題じゃないかと思うんです。それにはデータ的にも科学的な分析を通じて毎年、毎年キャッチしていかなければいけません。東京都民の足は東北新幹線ができて北に向かってるとか、あるいは秘湯めぐりがはやってるとか言われますが、箱根が東京の人々をどう引きつけるかが勝負ではないかという気がします。

 大木●きょう話題にまだ出てきていないんですが、温泉を使った健康づくりという問題があると思います。二十一世紀における国民の関心は、旅行、スポーツ、芸術、ファッションと言われています。年をとった人たちの中では健康管理に対する関心が高いわけです。
 昔から温泉は健康にいいということで利用されていますが、ただ温泉に入っていれば健康になるというわけじゃありません。健康管理というのは総合的なもので、毎日の食事、運動とか、精神的な満足度、良い環境などが総合されて健康ができてくるわけです。
 箱根は自然にも恵まれているし、豊かな温泉もある。いくつかの温泉場では、温泉を中心としての健康づくりを展開できるはずです。そういう方面の努力もお考えいただければと思っております。

 松坂●温泉と治療ということで明治の時代のことを調べまして、第二章にベルツのことを一項目加えてあります。
 先ほど高村さんから、大型旅館が抱え込むのは客のニーズもあるのではないかという話がありましたが、そういったことも含めて、青年部のほうから締めくくりの意見をお願いします。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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