【観光事業の創案】

 観光宣伝では、交通機関の発達、商業新聞の普及など新しい大衆化時代を迎えて、その宣伝のメディアを新聞広告、ポスターに求め、積極的に観光宣伝を開始したこと、また箱根大名行列をはじめとする観光諸行事、たとえば横浜復興博覧会への参加などを創案、今日にも受け継がれている箱根の大きな観光イベントは、ほとんどがこの年代に生まれている。また道路修理、散策路の新設、史跡保存、緑の愛護などを積極的に進め、今日の緑と歴史のある観光箱根の保存に努めたことなどが注目に値する。そして国立公園指定に向けて全力投球をしていた。
 一方時代の激しい動きは、温泉紛争に見られるように組合の一部に厳しい対立をもたらしたが、しかしそれらを乗り越えて、組合は新しい箱根観光の時代を築くべく努力したのである。
 箱根温泉旅館組合は、温泉宿組合から引継いだ新しい組織の組合であったが、宿組合と同様任意の組合であって法人格を持たなかった。国の観光政策もようやく軌道に乗り全国の観光地等に対する鉄道省、内務省の指導が地方自治体への指導とは別に、関係団体へ直接されるようになった。組合も次第に煩雑化する事務処理と、官公庁への対応に追われ事務局の整備と充実の必要が生じた。これらに対処して、任意の団体から、重要物産同業組合法に準則する組合とするための申請を昭和六年一月十七日に行った。この頃から箱根温泉旅館組合は箱根全山の民間組織としては最大の予算規模と、実力を持つようになった。

   昭和十年度箱根温泉旅館組合決算
 一、歳入
    賦課金      八、二六二円〇〇銭
    積立金利子       二〇、〇九
    過年度賦課金     一四四、〇〇
    補助金        三〇〇、〇〇 県ヨリ視察旅行ニ対シ補助金ヲ受ク
    寄付金        一〇〇、〇〇 エビス及ビキリンビール会社ヨリ各五〇円
    火災保険部手数料   五六三、四二 日本共立火災保険代理店手数料
    雑収入          三、八七
    前年度繰越金     一六四、三三
     合計      九、五五七円七一銭
 一、歳出
    遊覧浴客誘致費  一、六八九円六七銭 明細ハ事業報告宣伝ノ部ニ記載ス
    調査研究費       六一、六四
    視察費        三六九、八四  組合員視察旅行費
    講習及講話会費     六三、二二
    俸給         九五〇、九〇
    旅費         一三三、五〇
    賞与         一〇八、〇〇
    役員報酬        八〇、〇〇
    需要費        二一五、二六  備品、消耗品、印刷、通信費
    借家賃        一八〇、〇〇
    雑費          九九、一六  事務所諸雑費
    会議費        五二五、六七  定時総会一回臨時総会一回並ニ新年宴会費
    諸団体会費負担金
     箱根振興会   四、〇〇〇、〇〇
     日本温泉協会    一〇五、〇〇
     大箱根国立公園協会  五〇、〇〇
     神奈川県観光聯合会  五〇、〇〇
     神奈川県商工協会   二〇、〇〇
    積立金         二〇、〇九  銀行預金利子
    雑支出        五三六、三五  寄附、記念品、慶弔費等
     合計      九、二五八円三〇銭
 一、差引残高        二九九円四一銭 次年度ヘ繰越ス

 賦課金収入八、ニ〇〇円に対し、その二分の一にあたる四、〇〇〇円を振興会への負担金として支出している。振興会への負担は、その発足時から年額四、〇〇〇円が継続して支出されており、振興会は旅館組合の分身的性格のものであったといえよう。組合の定時総会では、振興会主催の事業、例えば観光博覧会等についても組合事業として詳しく報告されている。昭和十年度、振興会と共に行った宣伝、広告等の費用を合わせると、観光関連費は賦課金収入の五七パーセントを占め、誘客宣伝と国立公園指定に向けて全力を傾注していた当時の様子をうかがい知ることができる。

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※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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