【箱根観光博覧会の開催】

 昭和十年四月、湯本に於いて開催された箱根観光博覧会は、箱根振興会並びに旅館組合が行った特筆すべき事業であった。横浜市が震災復興記念大博覧会の計画を発表すると、振興会は箱根を第二会場として観光博覧会を開催し、各地から横浜に繰り出す観光客を箱根に誘致することを目論んだ。昭和九年九月五日の横浜貿易新報は「第二会場設置を箱根が熱望」の見出しで、小川仙二振興会長、安藤好之輔箱根町長外地元有力者が横山県知事に陳情した旨を報じている。当初のプランは、芦ノ湖畔または全山の五か町村に会場を分散して設置する構想であったが、会場決定は難航し、振興会、旅館組合、県観光連合会、大箱根国立公園協会等の関係者が協議を重ねた結果、ようやく湯本旭町早川沿いの埋立地(現在の河鹿荘附近)に決定した。このため地元湯本町は総経費の四分の一にあたる四、八〇〇円を負担している。
 観光博は、本会場である横浜復興博に二週間おくれて四月十日開幕した。開催決定後、僅かの日程の中で会場の建設と併せて千点にも及ぶ展示品の蒐集を完了したことは、箱根全山の協力が如何に大きかったかを物語っている。
 旅館組合の昭和十年度事業報告書には特別会計事業として次のように報告されている。

   箱根観光博覧会ノ開催 
  復興記念横浜大博覧会ノ開催ヲ機トシ大箱根温泉ノ現勢ヲ中外ニ宣伝紹介シ以テ沈衰セントスル箱根
  ノ覚醒ヲ促シ丹郡隧道開通東海道本線変更ニ依ル箱根ノ開発ヲ躍進セシメントスル目的ヲ以テ本会主
  催ノ下ニ開催、神奈川県当局ヲ始メ各方面ノ尽大ナル後援ニ依リ頗ル盛況裡ニ終始シ充分ナル成功ヲ
  収メタリ
   期間   自四月十日 至六月八日
   施設   温泉館 風光館 史蹟資料館 物産館 水族館 演芸館 歓迎門 其他
   建物坪数 四棟 百七十七坪五合
   出品者数 百十五人
   出品点数 九百十五点
   経費   金、一万九千百八十二円六銭
   入場者数 五万二千百八十五人
  大名行列
  箱根観光博覧会ノ余興トシテ各地青年団其ノ他ノ応援ヲ得テ時代風俗ノ箱根道中大名行列ヲ全山五回
  横浜博覧会場内一回催行シタリ、準備期間少ナキト経費ノ関係上公称十万石大名ノ格別ノ格式トシテ
  ハ余リニ小規模ナリシモ奴槍投ゲノ妙技ト長持唄ノ郷土節トハ箱根道中ノ時代風俗ヲ如実ニ表現セル
  モノニテ博覧会期中ノ呼物トシテ人気ノ焦点トナリ頗ル好評ヲ博シタリ
  横浜復興博覧会場内宣伝
  神奈川県特設館内ニ観光連合会ノ援助ニテ箱根全山ノヂオラマ式パノラマヲ出陳シ案内所ニテパンフ
  レット、チラシ等ヲ配布シテ箱根ノ宣伝ニ努メタリ
 また、横浜貿易新報は「箱根観光博開幕」の大見出しで
  待望の箱根観光博覧会は春雨煙る十日愈々開幕されて午後一時より構内中央大天幕に挙式した。湯本
  町をおほふ爛漫の桜花は今真盛り雨にぬれて栄の日を飾り(中略)観光博開催決定から僅か二十日間
  に建築設計から出品蒐集と全山大童の努力宜しく遂に実現して十日予定通り開場した、それ丈けに其
  内容は寧ろ嘆称すべき充実振りにあり、しかも正真の温泉を引いて湧出を見せ飲泉せしむるものや、
  箱根独特の高山植物或は芦の湖早川の魚類標本小水族館等惹目し、又東京の人形師代表十氏が仙石原
  金時神社に秘宝として春納の一人一作金時十態の如き得難き逸品も出陳されて優に半日を過しうる内
  容である。

と報じ、さらに「観光博早廻り」の見出しで、温泉風光館に展示されたバーデンバーデン、カルルスバードなどドイツの温泉地特有の飲泉器や医療器材、温泉協会出品のボーリング機械による温泉堀削の実演、史蹟資料館に展示された天保時代の湯宿の営業規約書など各館の出品物や情景を詳しく紹介している。
 開会の日に予定されていた呼物の大名行列は、生憎の雨のため延期となり十四日行われた。快晴にめぐまれた正午、小田原駅博覧会歓迎塔前広場に勢揃い、桜花舞う国道を箱根開場に向けて出発した。奴の毛槍投げや、馬子歌、長持歌は沿道を埋める観衆の喝采を受け、湯本に到着したのは日も暮れる時刻であった。この日大名行列の呼んだ人出は予想を超え、翌十五日付横浜貿易新報は、「この全山未曽有の懐旧的催し物は西湘の人気を集め、小田原駅は早朝から大磯、平塚、湯河原、真鶴方面からの見物人を満載、午前中駅前人の山を築く有様だった」と報じている。
 会期中、宮之下を皮切りに小涌谷、元箱根、仙石原でも行われたが、いずれも大好評を博したので、博覧会関係者から横浜本会場への出演要請があった。四月二十四日、横浜博覧会場に繰り広げられた大名行列は会場を埋める内外人の人気の的となり、箱根の宣伝に大きな成果をあげることができた。横浜出演にあたって、県は補助として、出演者一〇〇名と道具類輸送のための自動車を提供している。大名行列開催に要した費用は、衣裳及び道具類の購入費を合わせて四千二百余円であった。
 観光博覧会の入場者は五万人を超え、予想外の好評裡に六十日間の幕を閉じた。その支出決算は次のとおりである。

   箱根観光博覧会経費決算書(特別会計之部)
   一、収入之部
      負担金
      神奈川県観光協会連合会  五〇〇円〇〇銭
      箱根振興会        五〇〇、〇〇
      箱根温泉旅館組合     五〇〇、〇〇
      湯本町        四、八〇〇、〇〇
      富士箱根自動車株式会社  八〇〇、〇〇
      箱根登山鉄道株式会社   四〇〇、〇〇
      箱根遊船株式会社     ニ〇〇、〇〇
      日本電力株式会社     五〇〇、〇〇
      箱根温泉供給株式会社   三〇〇、〇〇
      小田原振興会       ニ〇〇、〇〇
     賛助金         一、六六〇、〇〇
     補助金         三、〇〇〇、〇〇
     売店使用料         三八〇、〇〇
     土地使用料          七〇、〇〇
     入場料         四、一四七、七三
     不用品払下代        八五七、四五
     雑収入           五六六、八八
       合計       一九、一八二円〇六銭
   一、支出之部
     建築費
      会場費        四、五五五円四三銭 四棟 一七七坪五合
     歓迎門           三三〇、〇〇
     設備費
      会場陳列設備費    一、八二〇、七七
      模型製作費        八三二、六六
      温泉特別設備費      五五八、四三
      電気水道設備費      五七四、一九
      館外設備費        二六七、三七
      土地整理片付費      三五八、六九
      其他設備費         九六、三〇
      余興費        四、ニ四四、九八 大名行列衣裳道具買入費ヲ含ム
     事務費
      会議費           一六、〇〇
      旅費           一七〇、二二
      監理保護費        九四六、九〇
      需用費          ニ五四、一九
      式典費          五五九、七〇
      宣伝費          六〇八、〇七
      通信運搬費        ニ〇一、五九
      雑費         一、二九一、八五 慰労会費並ニ記念品代ヲ含ム
     横浜会場内案内所設備費   三〇〇、〇〇
     臨時費           九四〇、五三 謝恩週間福引景品代入浴券其他
       合計       一八、九二七円八七銭
   一、差引残高          二五四円一九銭
     此処分方法左ノ如シ
      会長贈呈記念品       三〇
      職員手当         一五〇
      謝礼並ニ残務支払      七四、一九

カテゴリー: 2.昭和初期から戦後までの組合活動   パーマリンク

※本文書は昭和61年発行の『箱根温泉史』記載事項です。現在の事実とは異なる部分があります。

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