【創設事情】

 現在の箱根温泉協同組合の前身である温泉宿組合の資料は、大正八年以降のもので、創設時の事情を記録した資料は、残念ながらほとんど見出せない。したがって後年の資料をいくつかたどり、創設年代、創設時の組合員などを推察するほかない。
 組合の創設に関する資料は明治二十九年(一八九六)九月十六日『横浜毎日新聞』掲載の広告及び、大正八年(一九一九)一月二十二日に開催された通常総会が第二十四回であることから逆算して、第一回の設立総会が、明治二十九年に開かれたであろうことが推察される。
 今回本書編纂に当たり、幸い初代行事をつとめた宮之下奈良屋において宿組合規約(明治三十九年印刷)及び明治二十二年公布の「宿屋営業取締規則」を発見することができた。これらの資料を後年の記録から推察すると創設事情については、先に述べた箱根温泉の歴史的な背景の他に神奈川県などの行政指導があったことも見逃せない。明治二十二年(一八八九)四月、神奈川県は、県令第二十四号で「宿屋営業取締規則」を制定した。この規則により宿屋を営む者は、其場所、種類、営業用に供する建物の坪数及び間取を記した図面を添え、所轄警察署、又は分署へ出願して免許を受けなければならなくなった。また箱根七湯で旅人宿を営むには、客室二〇坪以上を有する家屋でなければ営業が許されなくなったのである。
 このような営業取締規則の施行により、営業許可を得た温泉宿主達が集まって結成されたものが、箱根温泉宿組合である。そしてその目的とするところは「互ニ権謀的競争ノ幣を避ケ親睦ヲ旨トシ該業ノ発達ヲ謀リ福利ヲ増進スル」(同組合規約)ためであった。

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