箱根カルデラは早川と須雲川の二大渓谷によってその東側が深く刻み込まれ、ちょうど相模湾に向かって開口したようになっている。このため、よく晴れた日に湘南海岸から箱根を眺めると、三重式火山の輪郭ばかりでなく、カルデラの中までうかがうことができる(図3)。
箱根山塊の左右に長く裾をひく雄大な山体が古期外輪山である。この斜面を滑らかにたどり、空中に富士山形の雄大な円錐形火山を想像することができる。久野は、グラフ用紙を用いて円錐形火山体の復元を試み、初期の箱根火山体は標高二七00メートルであったと推定した。
円錐火山体の中腹から上部を切り取り、残った台形の上面をなす山稜が古期外輪山である。C字形の山稜をたどると、塔ノ峰(五六六・三メートル)、明星ヶ岳(九二三・九メートル)、明神ヶ岳(一一六九・一メートル)、火打石岳(九八三・四メートル)、金時山(一二一二・五メートル)、丸岳(一一五四メートル)、三国山(一一〇一・八メートル)、箱根峠(八四九メートル)を経て大観山(一〇一一メートル)、白銀山(九九三・一メートル)、聖岳(八三八メートル)と続く。なお、久野はカルデラ壁南端をかたちづくる鞍掛山(一〇〇四メートル)と孫助山(九五六メートル)は湯河原火山を外輪山として、箱根古期外輪山から区別した。
箱根カルデラの直径をなす金時山~大観山の距離は一二・五キロメートル。これに直交する東西の短径は一〇キロメートルである。
カルデラ東部にある標高八〇〇~九〇〇メートルの浅間山(八〇二・二メートル)、鷹巣山(八三七メートル)、屏風山(九四八・一メートル)及び碓井峠八二〇メートル等の平頂山体が新期外輪山である。これらの平頂山はかつて古期カルデラを満たして生まれた楯状火山体のなごりである。あとで述べるように、久野の優れた研究の一つのポイントはこれら平頂山体を新期外輪山として独立した単元にしたことである。
カルデラ内に北北西ー南南東に並んでいる小塚山(八五三メートル)、台ヶ岳(一〇五四メートル)、神山(一四三八・二メートル)、陣傘山(一三二五メートル)、駒ケ岳(一三六〇メートル)、上二子(一〇九〇・八メートル)及び、下二子(一〇六四メートル)が中央火口丘である。