奈良時代末、天平十年(七三八)釈定坊によって湯本温泉が発見されたときから大正十二年初花で掘抜き井戸により温泉が湧出するまでを自然湧出の時代とする。一般に温泉は谷底に湧出する。湧出地点に浴槽を掘り、あるいは湧出口から樋によって浴槽まで導くなどして温泉を利用していた。たえまなく自然に湧きつづける温泉を見ていると、とても使いきれない量の温泉に見え、深い井戸など掘って温泉を汲み出そうという気分にはならない状態である。この時代を「温泉の無限時代」と呼ぶこともできる。大正五年ごろの箱根全山の源泉数は五〇程度を推定されている(大木 一九七九)。