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【町づくり】

 植原●これから先は若いものが、開発ということじゃなくて、町並みを含めた〝町づくり〟を考えていかなければいけないと思うんです。こういういい機会ですから、青年部の中にそういう委員会的なものをつくり、いわゆる〝町づくり〟ということで考えていきたいと思います。
 もう一つは大型旅館の問題ですが、これは卵が先か鶏が先かという難しい問題をはらんでいると思うんです。確かにお客様のニーズもあるでしょう。例えば宴会が終わってからお客さんが何かを求めて出ていったときに、街の店はシャッターをおろして閉めている。お土産を買えないから、旅館で何か欲しいというのがだいたいの始まりだったんじゃないでしょうか。これはあながち旅館だけがいけないわけでもないんだけれども、そういうのも含めて、観光地に住んでいる者の心構えが必要なのかなと思います。
 僕もつくづくそうだなと思ったのは、教育していった子供が箱根町に職場がないから外へ出ていってしまう。本当に難しい問題だと思いますね。

 安藤●開発の問題ですが、無計画の開発をしていけば、当然おかしなことになります。箱根の場合、今後われわれ中小旅館としては、環境変化とかそういうものに対応するための自助努力をしなければいけないと思うんです。これは交通公社の河内先生から聞いたんですが、旅館の場合、サービス、料理、施設、メンテナンスに対するクレームはだいたい二五パーセントずつ。一方、お客さんから見た場合、感謝はどこにあるかというと、要するにサービスの面、人間的な問題が六五パーセントを占めるというんです。
 われわれは大資本じゃないですから、これから設備を変えることも限度があります。質で勝負ということになると、どうしても人間的な要因が重要になります。

 久保寺●皆さんの意見を聞いて、非常に前向きで心強く思ったんですが、一点だけ申し上げたいんです。それは労務管理を通しての人づくりじゃないかと思います。

 井島●箱根の中央部にやや乱開発が進行しているように見えます。そのために水をどんどん吸い揚げるから、ひいては宮之下あたりの温泉にも枯渇現象が起こってしまいました。協調はしなけりゃいけないが、行政当局とわれわれ業界が一致して、これ以上の開発は何らかの形でチェックしてもらいたい。公的宿泊施設の増加も今まではしょうがないからこの辺で制限をしてもらわないといけないと思います。
 それからクワハウス的な利用ですが、これは実施の検討の段階に入ってもらいたいと思います。
 中小旅館の旅館経営の情熱の衰退。これはわれわれの自助努力を喚起しなきゃいけないし、旅館組合の若い方々はバイタリティーを持って、張り切ってやってほしいと思います。
 総合観光地開発のビジョンという問題ですが、例えば横浜市に「MM21計画」(みなとみらい21計画)というのがあります。予算規模も違うけれども、私が言いたいのは、われわれ中小旅館が情熱を喚起すると同じように、町長並びに行政当局も活性化に情熱を更に持って、スケールの大きいことをやってもらいたいと思います。

 松坂●実は昨日「日本旅行協定旅館連盟」の全国総会に出席しましたが、飯坂温泉の「古川屋」という旅館の主人が、「古い話ですが、学生の頃箱根に旅行して、お宅に一泊したことがあります。その時おかみさんが「学生さんはお金がないだろうから、特別料金でお泊めしましょう」と言ってくれました。そして翌朝には、「お弁当を作ったから持っていらっしゃい」と渡されました。その時のうれしさが今だに忘れられません」とわざわざ私を探して、ごあいさつに来られました。こんなささいなもてなしがお客様には一生忘れ得ない思い出として残るんですね。
 情熱の問題が最後の締めくくりで出ましたが、箱根は山代とか熱海とか道後に比べても、すばらしい基礎的な条件をそなえています。なぜかといえば、芦ノ湖の景観、豊富な温泉、全く環境の違う五地区の温泉場を持っています。そういうすばらしい素地を持っているわけですから、決して悲観することはありません。
 そして、箱根に来られた人々が「ああ、いいところへ来た」という感動を持って帰っていただけるよう、情熱を持ってこの仕事を進めたいと思います。これからの箱根をぜひぜひ盛り上げていきたいと思います。
 それではこの辺で座談会を閉めたいと思います。

   開催日時 昭和六十年三月八日(金)午後三時
     場所 箱根湯本 ホテルおかだ

出席者 箱根町観光協会長 田中喜一郎 箱根温泉旅館協同組合  組合史編纂委員会

    箱根町企画課長  高村 潔  理事長   勝俣武夫  委員長  松坂 進

    箱根町観光産業課長 勝俣利男 同副理事長 沢田 和  委員   草柳輝弥

    組合史編纂専門委員 岩崎宗純   〃  久保寺祐司   〃   井島誠夫

        〃     大木靖衛 同青年部  小川方隆   〃   石村菊次

                     〃   安藤紀之  事務局長 柳川 茂

                     〃   植原隆生  〃 次長 児島 豊

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