箱根七湯を浮世絵で始めて紹介したのは、鳥居清長の「箱根七湯名所」(天明元年(一七八一)・永寿堂)であった。清長は、このシリーズで七湯の各湯治場に江戸美人を配し、情感溢れる七湯浮世絵を描き出している。しかし、箱根七湯の風景や風俗が実在感をもって描き出されるのは、旅の浮世絵師安藤広重の登場を待たねばならない。
広重が描いた箱根七湯の浮世絵は、箱根塔之沢を画題とした「箱根湯治ノ図」(本朝名所)(天保三~十二年・松原屋)をはじめとして「箱根八湯」(天保六・七年・堂川堂)、「箱根七湯図会」(嘉永五年・佐野喜)、三代豊国との合作「雙筆七湯廻り」(安政五年・伊場仙)、「七湯方角略図」(安政前期・福住九蔵版)、「箱根湯本福住九蔵宅図」(安政前期・同上)その他一四点を数え、更に丹波コレクションの「箱根写生画帖」(神奈川県立博物館蔵)などの肉筆浮世絵などを加えるならば、その点数はかなりの数に達する。これら浮世絵の美質については本書の性格上検討することは避けるが、箱根温泉史上注目しなければならぬのが、福住九蔵版「七湯方角略図」であろう。
【七湯の浮世絵】
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