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【温泉の乱開発】

 戦前から温泉法施行まで、新規源泉が完成すると、初めの二日間新規源泉を止め周囲の既存源泉の湧出量と温度を調べた。次の二日間新規源泉の揚湯を行って既存温泉への影響を調べた。最後の二日間、再び新規源泉を止めて、既存温泉の様子を調べた。この方法が慣例として認められ、温泉法施行後も継続された。自然湧出や渦巻ポンプ時代(昭和二十四年ごろ)までは、この湧出量の測定方法は温泉影響調査として十分な感度をもっていた。それは温泉水位が地表近くにあって、新源泉の出現で水位が低下すると、直ちに湧出量の減少として観測されたからである。自噴泉の水位は地表面より数十センチから二~三メートルであるため、新規源泉出現による僅か数センチの水位低下でも湧出量に大きな変化を与えた。

 温泉掘削、揚湯、温度低下の少ない送湯などの技術進歩によって、これまで温泉の期待できなかった地域で、温泉開発が始まり、ことに昭和三十五年以降、強力なエアリフト・ポンプで揚湯が行われるようになった。
 温泉の孔内水位が地表から数十メートル以降の深さになっても、エアリフト・ポンプは揚湯することができる。例えば、孔内水位が地表から一〇〇メートルの位置にある温泉井戸群を考えてみよう。温泉を地表に達するまでの泡の柱にするために、孔井内に空気を送り込む鉄管を三〇〇メートルは挿入しなければならない。この装置を動かすためには一〇馬力ものモーターを使って二〇気圧の高圧空気を圧入する。さて、新源泉の揚湯で、隣接孔井の水位が一メートルも低下する大きな影響が現れたとしよう。箱根温泉では揚湯による水位低下が五〇メートルほどになるのは普通であり、したがって既存温泉のエア管が水中に浸っている深さは水柱として一五〇メートルとなる。この場合揚水による水位低下一メートルの大きさは、水柱一五〇メートルに対する一メートルであるため、通常の工業計器では検出できないほどの小さな圧力低下にしかならない。さらに、エアリフト・ポンプでは、このような規模の水位低下による揚湯量の減少は小さ過ぎて現れない。つまり、用水試験では影響はないことになる。自噴泉の時代であれば大紛争が始まったに違いない。新規源泉出現による既存温泉に対する影響調査は、開発技術の進展に対応できず、調査の目的を果たせないまま、自噴時代の手法が長年月にわたり頑強に守り続けられた。

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